【お役立ちミニ講座vol.25】変形労働時間制について徹底解説!その2:1年単位の変形労働時間制 について

みなさんこんにちは、毎日ぐったりするほど暑い日が続きますが、冷たい飲み物や果物が特に美味しく感じますね。

さて、前回に引き続き変形労働時間制についてお話しできればと思います。今回は「1か月単位」ではなく、基本「1年単位」で見ていく労働時間制になります。この1年単位の変形労働時間制ですが、厚生労働省の資料で導入企業が約3割と通常労働時間制に次いで高い採用割合になっていますよ。

中小企業事業主お助けわんこのしろ吉です!前回に引き続いて僕の出番があって嬉しいなあ。前回は1か月単位だったけど、1年単位ということは1年を平均して、週40時間とかになればいいってことですか?

さすがしろ吉くん、鋭くなってきたわね!そうまさに、大枠そのとおりで、1年以内の期間を平均して、法定労働時間を超えない範囲で、特定の日・週で法定労働時間を超えて労働させることができる制度なのよね。

実は私の勤めている会社も「1年変形労働時間制」が適用されています。運送業で、引っ越しシーズンとかが業務が繁忙になるので、その時季は所定労働時間が長く設定されているんです。

あら、そうだったの。それはずきんちゃんが誰よりも詳しそうね。では、ずきんちゃんにも手伝ってもらいながら、この「1年単位の変形労働時間制」について詳しく解説していきたいと思います。

1年単位の変形労働時間制の基本的仕組みを理解しよう!

【基本】1年単位の変形労働時間制とは
1年単位の変形労働時間制とは、労使協定を締結することにより、1年以内の一定の期間を平均し、1週間の労働時間が40時間以下(特例措置対象事業所も同じ)の範囲内において、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることが出来る制度です。

前回の1か月単位の変形労働時間制は労使協定か就業規則かどちらでもよいようになっていたと思うけど、こちらは労使協定が必須なんですね。それと、10人未満の接客業などに適用される特例措置もこちらはないんですね。

しろ吉くん、なんて記憶力と理解力Σ(・□・;)
そうなのよ、1か月単位と似ているようで似ていないところもあって、ややこしいんだけど、次から具体的な要件をみていきますね!
1年単位の変形労働時間制を導入するために必要なこと
1年単位の変形労働時間制を新規に採用するには、
労使協定の締結及び就業規則などを変更すること
所定の様式により所轄の労働基準監督署長に届け出ること
なお、常時使用する労働者が10人以上の事業場は就業規則の作成・届出は必須となりますが、10人未満であれば必須ではありません。
ただし、労使協定を定めることと届出は労働者の人数に関わらず必須になります。
なお、労使協定で定める事項は以下のものになります。
①対象労働者の範囲
②対象期間および起算日
対象期間は1か月を超え、1年以内の期間に限ります。
③特定期間
②の対象期間中の特に業務の繁忙な期間を特定期間として定めることができます。この特定期間は、連続して労働させる日数の限度に関係があります。
④労働日及び労働日ごとの労働時間
労働日及び労働日ごとの労働時間は②の対象期間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間を超えないよう、また、労働日数、労働時間の限度(次項目でまとめて説明)に適合するよう設定する必要があります。
また、特定した労働日及び労働日ごとの労働時間を任意に変更することはできません。
⑤労使協定の有効期間
1年単位の変形労働時間制を適切に運用するためには対象期間と同じ1年程度が望ましいとされます。
【参考】1年単位の変形労働時間制に関する労使協定書記載例 (事業所で作成する様式)
1年単位の変形労働時間制に関する協定届記載例 (管轄労基署に届け出る様式)
(いずれも福井労働局HPより引用)

1年単位の変形労働時間制では労働日や労働時間はどうなっているのか?

労働日数の限度

対象期間が1年の場合→280日
対象期間が3カ月を超え1年未満である場合
→280日 × 対象期間の暦日数/365日(小数点以下切り捨て)
(※ただし、ここでは省略しますが旧協定がある場合の例外があります。)

1日及び1週間の労働時間の限度

1日 10時間 1週間 52時間
<導入の要件>
48時間を超える所定労働時間を設定した週が連続3週間以内であること

起算日から3カ月ごとに区切った1期間に、48時間を超える週の初日が3日以内であること

1か月単位の変形労働時間制ではこんな定めはなかったと思うけど、1年単位のほうは色々な限度の定めがあるんですね。

よく気づいたわね!いくら繁忙期といってもこれ以上はダメという時間になりますよ。1か月よりも長い期間でみるから極端に労働時間が長い月を抑える仕組みになっていますね。

連続して労働させる日数の限度

連続労働日数 6日
ただし、特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)における連続労働日数は、労使協定の定めがある場合には、1週間に1日の休日が確保できる日数。最長12日)

そうそう、うちは毎年3月から4月が繁忙期で、そんなときは連続で10日くらい働いてた時がありましたよ!

労働時間の計算:割増対象の時間外労働はどのようにカウントするのか?

1年単位の変形労働時間制を採用とした場合に時間外労働となる時間は、基本1か月単位の変形労働時間制の場合と同じ仕組みになります。
ただし、特例対象事業所であっても、1週間についての基準は44時間ではなく40時間になります。
✅①1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
✅②1週間については、40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間 
(ただし、①で時間外労働となる時間を除く。)
✅③対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
(ただし、①または②で時間外労働となる時間を除く。)

③は例えば対象期間を1年で設定していると、1年経って初めて分かるということですか?

そうなのよ、1か月単位だったらその期間ごとに確認すればわかるけど、1年単位だと大分長いスパンになってしまうわよね。
ちなみに1年で定めた場合の法定労働時間は2085時間42分(閏年は2091時間25分)になりますが、もし超えた場合は1年後に時間外労働手当として支払わなければいけません。こういったときに勤怠管理システムでの設定が功を奏すことになりますよ。

✅なお、途中入社や途中退社などの場合は、実際に労働した時間を平均して週40時間を超えた労働時間について次の流れに沿って割増賃金を支払う必要があります。

退職日まで(または入社日から)の法定労働時間の総枠※を暦日で計算。 (実労働期間の暦日数÷7)×40時間
①で計算された法定労働時間の総枠と実労働時間を比較し、実労働時間の方が長い場合はその差を算出(日と週で残業時間として集計された時間数を除く)。
②で算出された時間数を残業時間として、賃金清算する。

う~ん、なかなか大変そうだな、しろ吉にできるかな。。

1年単位の変形労働時間制を採用するにあたっての実際の運用はどのようにすればよいのか?

さて、ここまで基本的仕組みや残業計算について、お話しましたが、実際に採用するときに具体的にどうやってやっていったらよいか見て行きましょう。

まずは、対象期間のカレンダーを作成しましょう!

1年単位の変形労働時間制の導入にあたり、対象期間の労働日及び労働日ごとの労働時間を予め定める必要があります。ただし、1か月を超える期間ごとに対象期間を区分した場合、最初の期間を除き、区分された各期間の30日前までに労働日及び労働日ごとの労働時間を労働者代表の同意を得て、書面により特定すればよいことになっています。
また、一度特定された労働日及び労働日ごとの労働時間を変更することができないので、導入にあたってはしっかり計画を立ててカレンダーを作成しましょう。

オフィスこころがシステムより作成した年間カレンダーのサンプルはこんな感じです(^^ゞ最終的に年平均でちょうど40時間になりました。

こちらはKiteRaという規程管理システムのオプション機能で作成しました。労働時間の基準時間を超えたり、年間平均が40時間を超えるとエラーが出てすぐわかる仕組みになっています。労使協定の届出の際にこちらの年間カレンダーも添付します。

労使協定や就業規則を整えて、届出&更新をしましょう!36協定届も1年単位の変形労働時間制の人は別枠なので注意!

基本的仕組みのところでお話ししたとおり、導入にあたっては労使協定の締結と届出は必須になります。またそれにあわせて就業規則もあれば改定を行い、10人以上の事業所の場合は管轄の労働基準監督署へ改定の届出も必要になります。就業規則の規程例はモデル就業規則にも詳しく記載されていますので参考にしてみてください。シフトを対象期間の初日の30日前までに知らせる規程例などもあります。また、労使協定は締結期間が更新されるごとに(基本1年ごとに)同じ運用方法でも再度届出なければいけませんので届出漏れにはご注意くださいね。
【参考】モデル就業規則令和5年7月版(厚生労働省HP)P30~P33参照
また、36協定(時間外労働休日労働に関する労使協定)についても、1年単位の変形労働時間制を採用する従業員は別枠に記載することになっていますので、変更があればその届出を行いましょう。
なお、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制による場合の限度時間は1か月42時間、1年320時間になります。

【参考】36協定届の記載例(厚生労働省HP)

実際の運用は勤怠管理システムを利用するのがベスト!ただし、システムによっては1年単位の変形労働時間制に対応していない場合があるので注意。

1か月単位の変形労働時間制のときにもお勧めしましたが、1年単位はさらに時間外があった場合の管理は大変そうですよね。シフト管理や時間外の計算を手管理でするのは正直大変ではないかと思います。勤怠管理システムを導入しますと、そのあたりがアラート機能で予め間違ったシフトを登録するとお知らせしてくれたり、給与計算期間での時間外、対象期間単位での時間外をシステム上で判別してくれますので、まずはそちらにお任せして、+αで人の目でも確認していくのが一番です。ただし、勤怠管理システムは世の中にたくさんの種類がありますが、1年単位の変形労働時間制に対応していないシステムもありますので、もし導入される場合は値段だけでなく、1年単位に対応しているのか、アラート機能があるのかなど、そのあたりも確認しておきましょう。

そうだよね、ちょっと挫折しそうになってたけど、希望が見えてきたよ。自分でやるのは自信ないけど、勤怠管理システムがあれば何とかなりそうだから、僕はそれを勧めていくよ!

オフィスこころの所見

さて、前回に引き続き変形労働時間制を取り上げてみました。1年単位の変形労働時間制は先にお話ししたように約3割の事業所が導入されているみたいですね。ただ、その中ですべて正しく運用できているか?と言われたら労使協定書の更新や協定届の届出を忘れていたり、時間外の計算がうまく出来ていなかったり、運用に問題がある事業所も多く、監督署の訪問調査で指摘されることもあるようです。

ずきんの勤めている会社はずっとこの1年単位の変形労働時間制を採用しているみたいだけど、今日聞いた話がちゃんと運用できているかはどうだろう…年間カレンダーは見たことあるのでまずはそちらから確認して、労使協定書も更新されているかどうか聞いてみますね。

ずきんちゃんの会社の運送業なんかは今年から時間外労働の上限規制が出来たから、この機会にしっかり見直してみるのもよいかもね。
1か月単位の変形労働時間制と同様、見直す際には勤怠管理システムの導入を検討してみてもよいかもしれません。時間外があまり発生しないのであれば、それほど管理は大変ではないかもしれませんが、時間外の計算の他にも、年間カレンダーやシフトの作成の際にもシステムがあれば違法な設定をお知らせしてくれるのでそれは便利ですよね。正しい勤怠管理に基づく給与計算ができているかどうかは、働いている従業員との信頼関係にも繋がるものになりますので、まずは自社にあった勤怠管理システムが正しく導入できるようオフィスこころでも事前相談などを承っております。すぐに運用を始めるのは難しいかもしれませんが、ご希望があればトラブルが起こる前にお問い合わせくださいね。
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