【お役立ちミニ講座Vol.8】すべての事業主、働く人必見!公的保険の手続きってどうなってるの?(Part2.健康保険と厚生年金保険)

みなさんこんにちは!今年も早や、街はクリスマスの雰囲気になってきましたね🎄さて、前回は労働保険(労災保険と雇用保険)についてお話しましたが、今回は社会保険(健康保険と厚生年金保険)についてお話したいと思います。

普通に働くだけで、結局4つもの公的保険に入ることになるんや(;'∀')

そうそう。今回の社会保険は、前回の労働保険に比べて、適用対象(加入する範囲)が少し狭いわよ。ただし、「適用拡大」と言って、法改正により段階的に労働保険と社会保険の対象者がほぼ同じになっていく予定となっているので、そのあたりも少し含めてお話するわね。

僕は今は全部の保険に入って働いているけど、必ずしもみんながみんな4つの保険に入っているわけではないんだね。僕のお給料からは、毎月たくさん保険料が天引きされてるなあ💦

Contents

健康保険と厚生年金保険は原則セットで加入が必要!「週30時間以上」の勤務かどうかが加入の目安に

社会保険(※1)っていったい何?→社会保険は「健康保険」と「厚生年金保険」から成り立ちます。

(※1)社会保険とは広義に解釈すると労働保険も含めますが、この投稿では狭義に解釈し、社会保険を「健康保険」と「厚生年金保険」から成り立つものとして解説します。

まずは共通事項 どんな事業所、どんな人が加入対象になるのか?

【共通事項その1:適用事業所とは】

①すべての法人事業所(業種や従業員規模によらない)

②常時従業員を5人以上使用している個人事業所(ただし、非適用業種と言って、例えば接客娯楽業(旅館、飲食店等)、法務業(弁護士、税理士等)、宗教業(寺院、神社等)、サービス業(飲食店・理美容店)等の事業所は除かれます。)

5人未満の個人事業所や強制加入対象の事業所にはならない個人事業所でも、従業員の半数以上が厚生年金保険等の適用事業所となることに同意し、事業主が申請すれば厚生労働大臣の認可を受けて任意加入をすることができます(任意適用事業所)。なお、令和4年10月より非適用業種のうち法務の事業所については、5人以上で強制適用事業所となることが決まっています。

【共通事項その2:被保険者とは】

健康保険・厚生年金保険では日本国内の事業所単位で適用事業所となり、その事業に使用され「一定の条件」を満たす人はすべて被保険者となります。法人の代表者など、労働保険の対象にならない方も、社会保険では法人に使用されるものとして強制加入の対象となります。なお、個人事業所の事業主及びその同居の家族などは対象外になります。

一定の条件とは?

①正社員や法人の代表者、役員等

②パートタイマー・アルバイト等でも、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である方

(ただし、2か月以内の期間を定めてその期間のみ雇用される人等は対象外)

また上記の条件を満たす場合は、外国籍の方であっても、試用期間中の方であっても雇用された日より適用となります。

現在は従業員数(※2)が501人以上の大規模事業所や国、地方自治体に勤める方は、正社員の4分の3未満であっても、週の所定労働時間が20時間以上など一定の条件を満たす場合は被保険者になります。またこの適用拡大については、令和4年10月に従業員数100人以上、令和6年10月に従業員数50人以上の事業所が対象になるとされています。

(※2)従業員数とは現在の厚生年金保険の加入者数で判断されます。

【参考】社会保険適用拡大ガイドブック

【参考】適用事業所と被保険者(日本年金機構HP)

労働基準法で定める週の法定労働時間は一般の事業所で40時間なので、その4分の3である週30時間以上働く方は、1か月の所定労働日数も4分の3以上満たせば、加入対象になりますね。商店、理容、接客娯楽、旅館業等で常時使用する労働者が10人未満の特例事業所であれば週の法定労働時間が44時間になるので、その場合は週33時間以上働く方で1か月の所定労働日数も4分の3以上満たせば、加入対象となります。

労働者がいなくても加入対象になるの?役員だけの会社はどうなるの?

そうね、法人事業所なら代表者ひとりでも、役員報酬がゼロでない限りは、社会保険の加入対象になるわね。この場合、原則労働保険は適用対象外だから、社会保険だけに加入しているということになるわね。

それぞれの保険(国、地方、私学共済以外)について個別に紹介!

健康保険…適用の窓口は原則事業所管轄の年金事務所、給付の窓口は各都道府県にひとつずつ存在する全国健康保険協会(通称:協会けんぽ)

【例外】船員さんが加入する船員保険の場合の給付の窓口は、東京にある全国健康保険協会の船員保険部が全国で唯一の窓口となります。ただし、健康保険組合を単独で設立している事業所、同種の事業体で共同設立している健康保険組合に加入している事業所はその組合が窓口となります。また、例えば法人設立前に各従業員が建設国保等に加入していた事業所が、法人設立時に社会保険の強制適用事業所となったときは、承認を受けたうえで健康保険が適用除外となり、引き続き建設国保に加入することができます。また、その事業所に新しく採用された人も一定の条件を満たせば、承認を受けて建設国保に加入することができます。このような同業種により設立された国民健康保険組合は、建設国保の他にも医師国保、薬剤師国保等があります。

健康保険は、被保険者やその家族(被扶養者)が病気やケガ(業務上・通勤災害を除く)をしたときに、医療の給付や手当などの支給を行う制度です。

この前の労災保険は「業務上や通勤災害」だったけど、こっちは「業務外」の保険なんだね🍀

そう。水色の健康保険証を持っていると思うけど、業務外の病気やケガに対して、窓口負担3割(6歳未満は2割、70~74歳の現役並み所得者以外は基本2割)で保険医療の給付を受けられる他、業務外の病気やケガで、長期間休職することになったときや、出産前後で働けないときなども、健康保険から所得補償の給付があるから、加入することで、より安心して仕事ができるようになっているわよ。高額医療療養費や出産育児一時金は国民健康保険にもあるけど、所得補償もあるのは社会保険に加入できる人ならではのメリットね。

【参考】こんな時に健保(全国健康保険協会HP)

また、医療給付が充実している他、保険料負担についても前年の所得で保険料が決まる国民健康保険と違って、事業主と折半という形をとっており、また被扶養者に対する保険料は発生しないなど、相対的に割安となっています。なお、健康保険料率は、協会けんぽの場合は全国の各支部の財政状況によって保険料率が異なっています。また、40歳以上65歳未満の従業員には介護保険料が健康保険料に別途加算されます。

【参考】都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会HP)

🌼健康保険の素朴なギモン Q&A

Q.健康保険の被扶養者になる条件は?→税法上の扶養とは認識が異なる(税法上の扶養になれなくても、健康保険の扶養に入れる人はいる)
A.被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人。対象者の収入の基準としては年間収入が130万未満(60歳以上の場合または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万未満)であって、かつ、被保険者の収入の半分未満であることが原則の条件になります。また別居している場合は、年間収入が130万未満もしくは60歳以上または障害者で180万未満であって、かつ被保険者からの仕送りが、認定対象者の収入よりも多いことが条件となります。また、年収(給与や年金等定期的な収入のことで一時的な収入は対象外だが、非課税収入も含む。また自営業者の場合は収入から保険者が認める経費を除いた額で判断)は扶養の対象になる日から原則向こう1年間の年収見込みになりますので、退職したばかりで過去の収入が多い方も、扶養に入る時点で収入がなければ対象になります。(ただし、失業保険を受給する間は、その手当の日額が60歳未満で3,612円以上、60歳以上または障害厚生年金(1級~3級)を受けられる程度の障害のある方で日額5,000円以上の場合は扶養に入れません。)この他、75歳以上の人もしくは65歳以上で一定の障害のある方は後期高齢者医療制度の対象となるため、健康保険の被扶養者にはなりません。
Q.健康保険の被扶養者になった配偶者の年金はどうなる?
20歳から60歳未満の配偶者が健康保険の扶養に入った場合は、同時に国民年金第3号被保険者になるため、保険料の負担がありませんが、第一号被保険者が全額の保険料を納めた場合と同様の取り扱いになります(ただし、死亡一時金の対象期間にはなりません)。また、例外として被保険者が65歳以上の年金受給者である場合は被扶養配偶者が20歳から60歳でも国民年金第3号被保険者にはなれず、第1号被保険者として自分で国民年金保険料を納める必要があります。
Q.健康保険の加入対象は?何歳まで加入する?保険料はどのように決まる?保険料は被扶養者についてもかかるの?
A.後期高齢者医療保険制度に加入する75歳(一定の障害がある方の場合は65歳以降で後期高齢者医療保険制度に加入したとき)までになります。保険料は被保険者の標準報酬月額で決まっており、被扶養者がいなくても、何人いても保険料は同じです。また、40歳以上65歳未満の被保険者には介護保険料が加算されます。協会けんぽの場合、例えば被保険者が40歳未満であれば、被扶養者が40歳以上65歳未満であっても、保険料に介護保険料の加算はありません。これは、協会けんぽでは介護保険に必要な費用は、制度全体として負担することになっているためですが、健康保険組合の場合は、独自に取り扱いが異なる場合があります。

厚生年金保険…窓口は事業所管轄の年金事務所

厚生年金保険は、被保険者が高齢になったとき、障害になったとき、亡くなった時に、請求していただくことにより、年金や一時金の支給を行う制度です。

年金の給付のことは今までのお役立ちミニ講座でも少し紹介していますが、「老齢年金」、「遺族年金」、「障害年金」が三つの柱ですね。厚生年金に加入しない場合は、20歳から60歳までの日本国内在住の人は国民年金に強制加入となります。厚生年金加入の方は同時に国民年金(20歳から老齢年金の受給権が発生する原則65歳まで)にも加入になります。例えば老齢年金の給付の際は、国民年金(基礎年金)部分にプラスして、報酬に比例して計算された年金額が加算されることになっているので、より手厚い年金給付が受けられることになっています。色々条件はありますが、障害年金や遺族年金に関しても、国民年金のみの加入者より手厚い給付となります。

働く立場としては、とりあえず厚生年金保険に加入できれば安心やな。

ちなみに、こちらも保険料負担は事業主と折半なので、報酬によっては国民年金の保険料よりも被保険者負担分は割安になりますね。それでも、国民年金のみの加入の場合よりも、将来の年金額においてプラスアルファがあります。

【参考】厚生年金保険保険料額表(令和3年度版)

🌼厚生年金保険の素朴なギモン Q&A

Q厚生年金の保険料率は今18.3%だけど、年々あがっていくの?
厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正に基づき平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月を最後に引上げが終了し、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。
Q厚生年金保険は何歳までかけるの?
健康保険は原則75歳(誕生日で資格喪失)までですが、厚生年金保険は、加入対象になる場合は70歳(誕生日の前日で資格喪失)までの加入になります。ただし70歳以降、事業所で同様に勤める場合は、「70歳以上被用者」と言って、保険料は発生しませんが、年金との調整のため、70歳前と同様に報酬や賞与の額を届け出る必要があります(年齢制限なし)。
【参考】従業員が70歳になったとき

社会保険に入るとどれくらいの経費がかかるのか?気になる事業主さんに目安を紹介!

賞与も含めて報酬の約30%が社会保険料です。その半分(約15%)を事業主が負担し、残り半分は従業員の給与より天引きします。

<例えば毎月の総支給額が30万円の40歳従業員の場合 R3年12月時点の香川県料率で試算>

料率 事業主負担分 本人負担分 合計
健康保険料(介護保険料込) 12.08% 18,120円 18,120円 36,240円
厚生年金保険料 18.30% 27,450円  27,450円 54,900円
子ども・子育て拠出金 0.36% 1,080円 なし 1,080円

ここで保険料率をすべて足すと30.74%(うち事業主負担分15.55%)
また40歳未満または65歳以上(70歳未満)の従業員を雇う場合は、介護保険料がないため28.94%(うち事業主負担分14.65%)となります。

なお、賞与を支給した場合は、賞与の総支給額に1,000円未満の端数があれば切り捨てし、その額に対して同料率の健康保険料、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金が発生しますので、こちらも経費の計算の中に含めてください。

労働保険とあわせると事業主負担は何パーセント?→労働保険料含めると、一般小売業で報酬の約16%の事業主負担がかかると思ってください。

労働保険とあわせて考える場合、労働保険は業種により料率が異なりますが、仮に一般の小売業として事業主負担分は労災保険料0.3%、雇用保険料0.6%なので全部あわせると、事業主負担は40歳以上65歳未満の人で16.45%、40歳未満または65歳以上(70歳未満)であれば15.55%ということになります。

社会保険料の計算の元になる報酬はどのように決まり、どのように徴収されるのか?(概略)

社会保険料は労働保険料と違って毎月発生します。例えば令和3年12月分の保険料は翌月末の令和4年1月末が納付期限となります。従業員の給与から控除する場合は、翌月の1月支払いの給与から天引し、預かった保険料と事業主負担分の保険料及び子ども・子育て拠出金をあわせて、その月(1月)の末日に納めることになります。また、標準報酬月額がどのように決められるかについては、資格取得時に基本給、諸手当、残業見込み等を含めた総支給額で届け出を行い決定された以降は、基本7月10日までに提出する年1回の算定基礎届において、4~6月までの総支給の平均額でその年の9月分からの標準報酬月額を改定することになります。この他、基本給の変更等、固定給や給与体系に変更があり、変更後初めての支給月から3か月の総支給額の平均が従前の標準報酬月額より2等級以上変動がある場合は、変更後初めての支給月から数えて4か月目の1日を改定日として標準報酬月額が改定される仕組みとなります。

なお、最初の資格取得時には、役員報酬以外の方は各地域の最低賃金を割らないよう報酬の設定、届け出をしてくださいね!

そういえば、毎年春頃に残業が多くなると、秋ごろからお給料から控除される保険料が高くなるから残業押さえろよって先輩から聞いたことあったな。こういうことなのか!

親切な先輩ね(^^;)
なお、厚生年金保険料率はH29年以降変更ありませんが、各都道府県の協会けんぽの収支の状況等により、健康保険料率は毎年3月に改定されることが多いです。その場合、3月分の保険料から保険料率が改定になるので、標準報酬月額は変わらなくても翌月の4月支払いの給与から控除額が変更になりますので注意が必要ですね。

社会保険に初めて加入する事業所が手続きする書類はどんなもの?

まず、適用対象かどうか確認した上で、適用対象であれば以下の書類を持参して、原則管轄の年金事務所の窓口で手続きすることになります(電子申請等も出来ますが、最初の加入手続きは管轄年金事務所の窓口で行うほうが賢明です。)

【法人事業所の場合】

①健康保険厚生年金保険 新規適用届+法人(商業)登記簿謄本(事業所の所在地が異なる場合は別途、賃貸借契約書のコピー等)+法人番号指定通知書のコピー

②健康保険厚生年金保険 被保険者資格取得届

③健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)

④健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書

【個人事業所(強制適用)の場合】

①健康保険厚生年金保険 新規適用届+個人事業主世帯全員の住民票(事業所の所在地が異なる場合は別途、賃貸借契約書のコピー等)

②~④は強制適用事業所と同じ

【任意適用事業所の場合】

①個人事業所(強制適用)の場合の①+任意適用申請書および任意適用同意書+事業主の5種類(所得税、事業税、市町村民税、国民年金保険料、国民健康保険料)の公租公課の領収書(原則1年分)

②~④は強制適用事業所の場合と同じ

なお、強制適用の場合は原則、新規適用届の受付日もしくはその月の1日に加入となりますが、任意適用の場合は、受付後に審査を経て、厚生労働大臣の認可があった日に加入となりますので、受付から認可まで約1週間ほど見込んでおいてください。

【参考】新規適用の手続き(日本年金機構HP)

【参考】任意適用申請の手続き(日本年金機構HP)

【参考】事業主の皆様へ 厚生年金保険・健康保険制度のご案内(日本年金機構作成リーフレット)

オフィスこころの所見

 以上、社会保険の適用条件、加入手続きの方法などについて概要を説明させていただきました。労働保険と制度はもちろん、加入対象の範囲も違えば、手続き場所、保険料率、保険料の納め方もまるで異なるので、事業主さんひとりが全部を把握して手続きしようとするとかなり大変だと思います。こちらのお役立ち講座のvol.7と8をあせて読んでいただければひととおりの概要は掴めるかと思いますが、この他にも労働条件の定め方や報酬の設定、労使協定の作成等予め確認しておかないと、あとで痛い目を見る場合もありますので、初めて人を雇う事業主さんは、社労士などの専門家に相談されながら進めることをおススメします(^^ゞ

最後までお読みいただきありがとうございました。オフィスこころでは、今後も身近な生活の中で、「こんなときどうしたらいいの?」という疑問に対する解決方法を少しずつ情報提供していきたいと思っています。少しでも誰かのお役に立てますように

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