【お役立ちミニ講座Vol.19】令和5年4月より中小企業にも月60時間超えの割増賃金引上げが適用!労働時間の客観的管理は出来ていますか?

みなさん、こんにちは🌸4月に入り、新しい環境に変わった方もいらっしゃいますか?年度始まりは、気分も一新しますが、色々新しい課題も見えて来るので、気が張りますよね💦オフィスこころも課題山積みですが、今年度もお役に立てるようできるところから頑張っていきたいと思います(^^ゞ
さて、この界隈で、4月の最大の話題と言えば、中小企業に対する月60時間超えの割増率の変更ではないでしょうか?その対策は出来ていますでしょうか?今日は基本のところからおさらいしながら、中小企業の喫緊の課題である勤務時間の管理について、分かりやすくお伝えできればと思います!

2回目登場の中小企業事業主お助けわんこの「しろ吉」です。月60時間超えの割増率増加とは聞き捨てならないです!ぜひ詳しく教えてください🌟

うちの会社は、恒常的に人員不足だから残業時間が月60時間を超えることもあるんだ。自分の給料にも影響してくるってことだと思うんで、ちゃんと計算されているか確認するためにも、知っておかなくては。。

企業側にとっても、労働者側にとってもこの法改正を充分理解して、労使双方でより納得のいく勤務体系や給与体系に近づけることが大事だと思うので、今日はいつもより力を入れて説明するわね(^^ゞ

Contents

中小企業の月60時間超えの時間外労働に対する割増賃金率が50%に引き上げされました👆

まずは改正の概要についてお伝えします📝

令和5年4月1日からの法改正事項
月60時間超えの残業割増賃金率が、大企業、中小企業ともに(つまり全事業所が対象)50%
※大企業は平成22年4月より既に適用されており、中小企業は猶予されていましたが、この4月より中小企業もこの規定が適用されるということです!

1か月の時間外労働(法定休日労働は含まない)
(原則1日8時間・週40時間を超える労働時間)
60時間以下 60時間超え
大企業(平成22年4月~) 25% 50%
中小企業(令和5年4月~) 25% 50%

中小企業に該当するかどうかは、事業場単位でなく、企業単位で判断されます。
【参考】中小企業の範囲(熊本労働局HP)

ぼくの会社は、20日締めなんだけど、3/21~4/20で60時間を超えるってどこで見るんだろう?

かえるちゃん、珍しく細かいとこに着目してるわね(;'∀')
基本1か月は賃金計算期間の初日を起算としてカウントされるのだけど、今回の4月1日を跨ぐ場合は、4月1日から起算して60時間に達した後に行われた時間外労働について、5割以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要になるとされていますよ。なので、4/1~4/20までの間で60時間を超えたところから、割増率が上がるってことね。
【根拠】改正労働基準法のあらましP11のQ&A4参照(平成22年4月1日に大企業に適用されたときのリーフレットになります。)

時間外労働に関する基本知識のおさらい✍

今回の改正の概要をざっくりお伝えしましたけど、その大元になる時間外労働の考え方について、おさらいしますね。
まずは基本の時間外労働とは何を指すのか?
労働基準法第32条
使用者 は、 労働者 に、 休憩 時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

上記の法律に基づき、1週:40時間、1日:8時間を超える労働は時間外労働とされるということになります。
ただし、特例措置対象事業所というのがあって、この場合は1週:44時間、1日:8時間を超える労働が時間外労働になります。
特例措置対象事業所というのは労働者数10人未満の①商業②映画・演劇業(映画の制作事業を除く)③保健衛生業④接客娯楽業になります。
①~④の具体的業種は以下のようになります。

商業 卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業 映画の映写、演劇、その他興業の事業
保健衛生業 病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業 旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

一般の事業所とは週で4時間の差だけですが、中小企業にとっては、例えば月~金を1日8時間、土曜日1日4時間で所定労働時間が設定できるなど、割と大きな差になると思いますね。

ちなみに休憩時間についてですが、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を労働時間の中途に与えなければならないとされています。

8時間ちょうどまでは、45分の休憩でもいいんだね。でも労働者としては慌ただしいから1時間くらいは休憩欲しいなあ。。
時間外労働に規制はあるのか?

では、上記の時間を超える労働についてはどのような規制があるのか見て行きましょう。
まず、労働基準法第36条で「限度時間」というのが定められています。

限度時間
1か月において45時間(42時間)
1年について360時間(320時間)
※( )は対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を採用した場合
上記時間は、時間外労働のみの時間になり、休日労働(正確に言えば法定休日労働)は含まれません。

ちょっと勘違いしやすいのが、この限度時間というのは時間外労働のみでカウントしますので、法定休日の日に何時間労働しても、この中には含まれないことになります💦

法定休日っていうのは、うちの会社で言えば、日曜日を法定休日とするって確か就業規則に定められていたわ。週休二日制なので土曜日も会社の休みなっていますが、この場合は、休日労働とは言わないのですか?

さすが、ずきんちゃんは鋭いわね🌟その場合の土曜日は、正確に言えば「法定外休日」になって、休日労働の中には含まれていません。1日8時間で平日週5日勤務の事業所が、土曜日に労働させた場合は、週40時間を超えますが、その場合は、時間外労働になりますから、この限度時間にカウントする必要がありますね!
時間外労働を1分でもさせる場合は、予め労使協定の締結と届出が必要!!

ただし、このような時間外労働をする場合は、何もなしに労働させることができるのではなく、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者)との間に書面での労使協定(いわゆる36協定)の締結が必要とされています。

これは必ず、時間外労働を実際にさせる前に締結して、かつ所管の労働基準監督署に届け出ることが必要になります。極端な話、もし届出していなかったら法令違反になりますので、気を付けてくださいね!以下、36協定の記載例になりますので参考にしてください。

【参考】36協定の記載例(厚生労働省HP)

時間外労働をさせるのは当然のことではなく、必ず理由がいりますので、そのことも労使協定に記載します。ちなみに、この労使協定の届出は電子証明書がなくても、e-Govより電子申請が可能になっていますよ。
時間外労働とは別に、休日労働をさせる場合も協定の締結が必要!
労働基準法第35条

第1項 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
第2項 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

労働基準法第35条で休日は原則週1回と定められていますので、その週1回の休日がいわゆる「法定休日」になります。この法定休日をどこに定めるかは事業所に委ねられていますが、一般的には「日曜日」と定められているところが多いです。ただ、例えば日曜日も営業しているお店などが事業所の場合は、日曜日と定めず、そのお店の定休日とか、年中無休のシフト制ならば、1週間のうち最後(もしくは最初)の休日を法定休日とするなどとされています。
いずれにしろ、この週1回(もしくは4週につき4日以上)の休日に労働をさせた場合が法定休日労働になり、どうしてもこの休日に労働をさせる必要がある場合も、労使協定の締結が必要になります。

時間外労働と休日労働はとにかく分けて考えないとわからなくなってしまいますね。これは事業主さんにも伝えなくては💦

限度時間を超えてさらに時間外労働をさせる場合は、労使協定に「特別条項」が必要。その場合も延長時間の上限あり!
1か月について45時間、年360時間の限度時間を超えてでも、時間外労働をさせないと業務が回らない緊急事態になったときはどうするのか?と言いますと、そのようなことが予測される場合は、時間外労使協定に特別条項を設けることで以下の時間までの時間外労働が可能になります。

特別条項を設けた場合の延長時間の限度
当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合
① 1年720時間(時間外労働のみ)
② 1月100時間未満(時間外労働+休日労働)
③ 限度時間である月45時間(42時間)を上回る回数は「年6回」まで
※( )は対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を採用した場合

①は時間外労働のみで、②は休日労働も含むんですね。益々こんがらがってきました💦

そうなのよ、特別条項②の1月100時間未満の中には休日労働も含むから注意が必要ね。さらに③については、休日労働は含まないのよね。
特別条項を設ける場合は、一般条項に加えて、特別条項を設けた労使協定を労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者)との間に書面での労使協定の締結が必要とされています。また、実際に特別条項を発動する場合は、「発動手続きに関する記録(労使協議の特別条項発動協議書や労働者代表への特別条項発動通知書など)」と「健康・福祉確保措置の実施状況」の記録を作成して保存する必要があります。
【参考】特別条項付き36協定の記載例(厚生労働省HP)

こちらも、限度時間を超えて時間外労働等をさせる必要がある場合に、事前に労使協定を締結して、かつ所管の労働基準監督署に届け出ることが必要になりますので、絶対忘れないでくださいね!また、特別条項を発動する際にどのような健康確保措置を設けるかを予め二つ以上申告する必要もありますよ!
限度時間と特別条項の前提となる「絶対的上限」についても確認が必要!
実労働時間の「絶対的上限」
一般の36協定による場合であっても、特別条項付き協定による場合にであっても、絶対に守らなければならない実労働時間の上限規制
時間外労働+休日労働
単月で100時間未満
2~6か月平均で80時間以内

ううん、一般の36協定の限度時間は45時間でなかったでしたっけ?そもそも単月100時間未満とか平均80時間っていうのはそもそもあり得ないのでは?

ほら、この絶対的上限には休日労働を含んでいるのよ。だから、法定休日に働く休日労働が多かった場合には、この絶対的上限を超えてしまうことがあり得なくもないわけね。

ちなみに、この2~6カ月平均で80時間以内っていうのは、結構引っかかりやすいポイントです。1か月100時間未満に抑えていても、2か月平均で80時間を超えていたということで、最近でも名古屋のほうで監督署に労働基準法第36条(時間外および休日の労働)違反の疑いで名古屋地検に書類送検された事例がありましたよ。ちなみに罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金になっています💦
中小企業の事業主さんも大変だなあ。。

割増賃金の計算はどのようにするのか?就業規則は変えられていますか?

時間外労働、休日労働を含む給与計算例
時間外労働、休日労働、深夜労働の残業計算について
①時間外労働(60時間以下) 割増時間単価×125%
②時間外労働(60時間超え) 割増時間単価×150%
③法定休日労働        割増時間単価×135%
④深夜労働          割増時間単価×25%
※時間外労働とは法定時間を超える時間外労働になります。
【事例研究✍】
基本給月額20万円、職務手当1万円、資格手当1万円、通勤手当4,200円
月平均所定労働時間160時間
令和5年4月の時間外労働時間70時間(うち60時間超え10時間) 法定休日労働8時間 深夜労働4時間(時間外労働の部分に深夜労働を行う)の場合
割増時間単価 (20万円+1万円+1万円※)÷ 160=1,375円 
※割増賃金の基礎となる賃金より通勤手当等は除けます。【参考】割増賃金の基礎となる賃金とは?
時間外残業手当① 1,375× 1.25×60=103,125円
時間外残業手当② 1,375× 1.5×10=20,625円
休日労働手当③  1,375×1.35×8=14,850円
深夜労働手当④  1,375×0.25×4=1,375円
🍀令和5年4月の給与 合計総支給額 364,175円
(内訳)基本給200,000円/職務手当10,000円/資格手当10,000円/通勤手当4,200円
 /時間外残業手当 123,750円/休日労働手当 14,850円/深夜労働手当 1,375円

所定時間が1日7時間の会社の場合、7時間から8時間までの1時間はどうなるのですか?

その場合、時間外労働ではないので、割増で賃金を払う必要はありませんが、割増でない賃金は時間単位に換算して払う必要はもちろんありますよ。

ちなみに、この割増時間単価を算出する際に、含めなくてよい手当などがあるのと、その計算の仕方については、下記の資料も参考にしてください。ここでは長くなりすぎるので省略しますが、また機会がありましたら、変形労働時間制の場合どうするのかなども含めて改めて解説しますね!
【参考】割増賃金の計算の方法(川崎北労働基準監督署作成)
なお、割増賃金の適用除外とされている労働者がいますので注意!
  1. 農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事する者(林業は除く)
  2. 監督もしくは管理の地位にある者、または機密の事務を取り扱う者
  3. 監視、または断続的労働に従事する者(ただし、行政官庁の許可を受けた者)

    農林水産業などはどうしても天候に左右されるので、労働時間や休日の規定自体が適用除外されています。また、いわゆる管理職も除外されるのですが、名ばかり管理職というように、その役職の名前でなく、実態がどうなのかで判断されますね。

    そういえば、農家さんの手伝いで住み込みで働いている友達の給与明細みせてもらったことあるんだけど、結構働いているのに、割増賃金なんて項目なかったのはそういうことなのか!

    時間外労働の上限規制の適用除外または猶予となる業種がありますので注意!ただし、その猶予もまもなく終了します💦

    令和6年3月末まで上限規制が猶予されている4業種

    ①建設事業
    ②自動車運転の業務
    ③医師
    ④鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業
    ただし、令和6年4月より猶予期間は終わり、条件付きで上限規制が適用され始めます。詳しくは下記をご参照ください。
    【参考】時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務(厚生労働省HP)

    いわゆる、建設業・運送業・医師が上限規制が現在適用されていない主な業種ですね。一般的に長時間労働が常態化している業種になりますが、令和6年4月以降は上限規制が設けられますので、それぞれの業種の事業主様は要確認です🌟
    上限規制が適用除外の業種

    新技術・新商品等の研究開発業務

    その他確認しておきたい事項

    時間外割増賃金に変えて「代替休暇」が利用できるって何ですか?

    月60時間を超える法定労働時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため引き上げ分の割増賃金の支払いの代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。ただし、この代替休暇を導入するには、労使協定を締結する必要があり、また時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日から2か月以内に与えることや代替休暇を取得するかどうか、またいつ取得するかは労働者の意思に委ねられるなど、色々条件がありますので、導入するときはしっかり確認して検討しましょう💦

    【参考】代替休暇制度を導入するための労使協定を締結する場合のポイント(愛媛労働局HP)

    オフィスこころの所見:この変化にどうやって対応していくべきか?5つのチェックポイント🌟

    ✅①まずは労働時間の客観的管理がなされているか調べてみて、時間外労働の実態がどうなっているのか把握しましょう。

    労働者がどのように働いているか、残業はどれくらいなのか、しっかり把握されていますか?勤怠管理が自己申告制や会社の指示どおりに一律に記載されていたりしていませんか?まずは、PCログも含めて、実態がどうなっているのかを洗いざらい確認しましょう。

    ✅②法令に基づく正しい給与計算はできていますか?また、就業規則や賃金規程には正しく記載されていますか?

    ①が確認できたら、その時間外労働や休日労働に対する割増賃金は法令どおり支払われているか確認しましょう。また就業規則や賃金規程も計算方法や割増率について、正しく記載されていますか?今一度、見直しておきましょう。

    ✅③客観的管理ができていなければ、その方法を考えましょう。紙のタイムカードを卒業して、勤怠管理システムの導入もお勧めです。

    ①②のいずれかが出来ていない場合、改善できる対策を考えましょう。また、より客観的管理ができ、集計なども楽になる勤怠管理システムを導入することもお勧めです。その勤怠管理システムで集計した結果を給与計算ソフトに連携して取り込むことができれば、紙のタイムカード等で人力でチェックしていた作業も大幅に削減できる可能性があります。

    ✅④業務見直しや給与体系の見直し、単なる残業削減でなく労働者のモチベーションが上がるような仕組みを構築しましょう。

    時間外を計算したら、想定以上に多かったという場合には、残業代をなるべく減らしたいと思われると思いますが、社内の業務を見直し、効率化を図るとともに、労働者の給与体系についても、効率化を図り残業を削減するような社員は評価を高くして基本給を上げるなど、「長時間仕事をしたら残業代が増えて、給与が上がる」という仕組みが当たり前にならないよう、根本から見直して行きましょう。また、会社全体のシステムについても、より効率化が図れる仕組み作りが必要であることは言わずもがなです。

    ✅⑤働き方改革推進助成金を活用して、環境整備に必要な一部の費用を助成金で賄うことも可能です。

    働き方改革に取り組む中小企業の事業主には、勤怠管理システムの導入や就業規則の改定など環境整備に必要な一部の費用を国が助成する制度があります。助成率は75%です。情報を収集して、積極的に活用することも考えて行きましょう。
    【参考】令和5年度「働き方改革推進支援助成金」労働時間短縮・年休促進支援コース

    時間外労働に関する規制は今後ますます厳しくなってくると予想されます。思わぬところからタレコミがあり、監督署の調査が入って多額の未払い残業代を遡って支払うことになったというのもよく聞きます。それもありますが、まずは第一に、時間外労働を削減して労働者の身体と心の健康を維持することは仕事のパフォーマンスを上げることにもなりますので、社内全体で対策を考えて、未来に繋がる健康経営ができる会社を作っていきましょう!

    今日もとても勉強になりました。早速事業主さんに、勤怠管理の重要性について力説していきたいと思います(^^ゞ

    オフィスこころでは、業務効率化を図れるクラウドの労務管理ソフトや勤怠管理ソフト、給与計算ソフトの提供や導入支援などもできるよう、体制を整えつつありますので、また随時案内致しますね(^^ゞ
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