【お役立ちミニ講座vol.32】労使間のトラブルが自主的に解決できなかったらどうやって解決する?事業主も労働者も知っておいたほうがいい「個別労働紛争解決制度」についてお話します!

みなさんこんにちは!過ごしやすい季節になりましたね。暑い夏が来る前の束の間の過ごしやすい新緑の季節を楽しんでいきたいです。
さて今回また久しぶりのお役立ちミニ講座になりますが、信頼関係で結ばれている労使間においてトラブルがあったときどうやって解決していけるのかというところをお話しできたらと思います。

労使間のトラブルっていったら大なり小なりあると思うけど、最終的には裁判で解決するってことなのかな?
でも何かトラブルがあったとしても、お金も労力もかかりそうだし、自分はよほどじゃないと泣き寝入りしそうな気がするよ。

そうね、よく労働判例などで見受けられるのは民事訴訟まで言った場合の判決文などであるけど、言う通り費用も労力も時間も相当かかるものですよね。
でもそこに行くまでに行政にも個別労働紛争について相談、解決できる手段は実はいろいろあるので、もし知らないとしたらもったいない。今日はそのあたりの利用について簡単にお話しできたらなと思います。

それって事業主さんにとってもいい話ですか?

もちろんそうよ。労使どちらの立場からも利用はできるので、何もないことが一番ではあるけど、もしものときにはぜひ思い出してもらえるようお話していきますね。

目次

個々の労働者と事業主の間の紛争(個別労働関係紛争)の解決制度って何?

個別労働関係紛争とは「個々の労働者と事業主の間で起こる紛争」、いわゆる職場のトラブルを企業内で自主的解決ができなかったとき、裁判外で相談して解決を促してもらえる制度になります。紛争の最終解決手段として裁判制度(民事訴訟など)がありますが、長い時間と多くの費用がかかってしまいます。中にはトラブル→弁護士→裁判と安易に結びつけることがありますが、職場慣行を踏まえた円満・迅速な解決を図ることを目的とした「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が平成13年に施行されており、それに基づいた行政の制度や窓口がありますので、以下その3つの方法を簡単にご紹介します。

①都道府県労働局、労働基準監督署などに設置された「総合労働相談コーナー」での情報提供・相談

まず労働トラブルがあったときに相談する先として、都道府県労働局、労働基準監督署など、あらゆる労働問題に関する相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナーがあります。専門の相談員が配置され、解雇、雇止め、配置転換、賃金の引き下げなど労働条件のほか、募集・採用、いじめ・嫌がらせなどあらゆる労働問題に関して労働者、求職者、事業主からの相談を電話や面談で受付しています。個別労働関係紛争の中には、法令や判例を知らない場合や誤解に基づいて発生したものも多くみられるため、まずはその情報を正しく知り、解決の方向性を知る最初の手段となります。

最初のかけこみ寺みたいなものですね。自分の事例が難しい労働関係法においてどういう立ち位置なのか、どうやったら解決できるのかを知るのにまずは確認が必要ですね。

ちなみに、全国で寄せられる総合労働相談の件数は令和6年度で120万件ほどあるそうです。その中で一番多いのが法制度の問い合わせ(7割弱)、次に民事上の個別労働関係紛争の相談(約2割)、次に労働基準法等違反の疑いがあるものの相談(約2割弱)になります。必要に応じて、各都道府県の労政主管事務所、労働委員会、裁判所、法テラスなど各機関と連携し、主に個別労働関係紛争に関しては、次の②③の制度へ、労働準法違反の疑いがあるものは監督署やハローワーク、労働局の雇用環境・均等部(室)などの関係機関へ取次ぎされる場合があります。

まず相談される場合は、感情的にすぐ飛び込むより具体的な資料と事実関係をある程度整理してから相談された方が、有益なアドバイスを受けられる可能性が高くなると思います。また労働者だけでなく、事業主や求職者からの相談も受け付けていますよ。ただし、公務員の方は原則対象外となります。

②都道府県労働局長による助言・指導

①で受けた総合労働相談に対して、労働者から事業主への助言・指導の申し出があった場合に、労働局が、事業主に対して法的観点から問題点を指摘し、解決の方向性を示すことで、紛争当事者の自主的な紛争解決を促進する制度です。この制度は法違反の是正を図るための行政指導とは異なり、あくまで紛争当事者に対して、話し合いによる解決を促すもので強制力はありません。ですが、事業主側が動く実効性が高い「行政的な圧力」として機能するとも言えます。

確かに、都道府県労働局長から助言・指導が来たら、強制力はないといっても事業主としては無視はできないだろうなあ。その時は誠実に対応するしかないね。

そうね、紛争発生時点ではどちらがどうとか確定はできないけど、もし法律や判例などを知らないことで誤解していた部分があれば、それを是正することで解決に至ることがあるかもしれないわね。

こういう制度があるのはありがたいけど、自分が相談したことで自分の立場が不利になるのが嫌だから、なんとなく助言・指導の申出はしにくいなあ。

それもね、この法律の中では、労働者が助言・指導の申し出をしたことを理由にその労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをすることは禁止されているから、実際の助言・指導に際しても事業主に注意点として説明されますので、そこは安心していいと思います。納得がいかないことがあったら最終的に助言・指導の申し出をするのが適切かどうか決めるのは相談した労働者の判断になりますが、それには労働者もできる限り事実関係を整理し、必要な資料を揃えることも必要になってきます。

③紛争調整委員会によるあっせん(話し合いによる柔軟な解決を目的とする)

②の都道府県労働局長による助言・指導でも解決ができなかった場合など(ただし、必ずしも②を経る必要はありません)、当事者の一方からの申し出により、都道府県労働局に設置された「紛争調整委員会」によるあっせんや調停の手続きをすることができます。紛争当事者の間に、公平・中立な第三者として労働問題の専門家(弁護士、大学教授、社会保険労務士など)が入り、双方の主張や要点を確かめ、双方から求められた場合は、両者それぞれに事案に応じた具体的なあっせん案が提示されます。紛争当事者間の調整を行い、話し合いを促進して、紛争の柔軟的解決を図る行政の制度になります。

そんな制度もあるんだ、裁判とはどう違うの?

ではこの紛争調整委員会によるあっせんの特徴を簡単に表にしますね。

紛争調整委員会によるあっせんの特徴と留意点、裁判との違いなど

1.手続きが迅速・簡便
長い時間と多くの費用を要する裁判に比べ、手続きが迅速で簡便です。
ただし、あっせんへの参加は任意で相手側が不参加であればあっせんは行われず打ち切りとなります。
2.専門家が担当(紛争調整委員は労働問題の専門家が対応)
3.利用は無料
ただし、申請や参加に際し、代理人を立てた場合などは報酬などが多少発生します。
4.合意の効力
紛争当事者間で成立した合意は、民法上の和解契約の効力を持つので、あっせん委員が合意内容を明らかにするための合意文書を作成します。
ただし、労働審判や民事訴訟などの裁判上の効力はないため、強制執行は不可となりますので不履行になった場合に差し押さえなどはできません。(必要に応じて公証役場において、相手方が強制執行を承諾する旨の公正証書を作成することなどは可能です。)
5.非公開(秘密厳守)
民事訴訟では、裁判記録が公開され、会社名や当事者名が外部に知られる可能性があります。
これに対し、あっせん手続はすべて非公開で行われ、会社名が公表されることもありません。
6.不利益取り扱いの禁止
7.募集・採用(内定より前の段階)に関する紛争は対象にならない
募集・採用の段階では労働契約を結んでいないため、②の労働局長による助言・指導の対象になりますが、法律関係が存在せず、あっせんの対象にはなりません。
8.必ずしも金銭的解決に限られない
あっせんは、金銭以外の内容でも、当事者が合意すれば何でも解決内容にできます。
例えば、会社側の対応改善、謝意や説明を求めること、再発防止策の提示、退職理由の調整など柔軟な内容を合意することができます。
なるほど、これはどちらにとっても裁判するよりメリットが多そうだなあ。

民事訴訟まで行くと、判決文などが公開されて見ようと思ったら誰でも検索できるから、企業名のブランドを傷つけかねないこともあるわね。結局多額の費用と時間をかけても失うものは多くても得るものは少ないのなら、話し合いで解決できる制度を利用したほうが労使ともに最終的に納得がいくものになる可能性が高いと思います。もちろん、話し合いで解決できなかった場合は、労働審判や民事訴訟といった手続きに進むことも可能です。

最後の、「金銭的解決に限られない」っていうのは魅力的ですね、必ずしも金銭的解決を求める人ばかりではなく、改善をしてほしいということを求める労働者も多いと思います。

そうなの、オフィスこころが相談をいただく中でも、実はそういう人は潜在的に多いです。誤解があったならば、その誤解を解いてよりよい労働環境や信頼関係を再構築できるきっかけとなるかもしれませんね。裁判では「訴えの利益」がないと基本、手続きが始まりませんが、あっせんはそれとは一線を画し、話し合いによる柔軟な解決を目的とした制度である点が特徴的です。

なお、裁判所にも原則3回以内の期日で終了となり非公開で進む調停や労働審判など話し合いや早期解決を図る手段もあります。以下のリーフレットを参考にしてください。
【参考】ご存じですか?労働審判制度(最高裁判所リーフレット)

紛争調整委員会によるあっせんの手続きは具体的にどう行われるの?

ではこの紛争委員会によるあっせんの手続きは具体的にどう行われていくのかポイントに絞って説明していきますね。

紛争調整委員会によるあっせんのポイント

Point1:あっせん申請を行うには、請求する側からの「あっせん申請」が必要になります。また請求された側にもできる限り「答弁書」を求められます。

あっせん申請には決まった様式があり、記載例も示されていますが、紛争の原因となった事項や相手方に対する請求内容、紛争の経過などをできる限り詳しく記載する必要があります。なお、様式は1枚ものですが、実際は具体的に記載しようとすると1枚では足らないことも多いと思います。その場合は別紙に記載して添付します。
【参考】あっせん申請書様式

記載するの大変そうだし、一人でちゃんと記載できる自信がないなあ。。

そうね、このあっせん申請書や答弁書をきちんと作成できるかどうかで、紛争調整委員が適切に判断する材料にもなるから、いい加減には記載するものではないです。裁判外とは言え、裁判と同じような書面も必要になるので、個人や一事業主が作成するのは難しいことだと思います。そこで次のような手段があります。

Point2:個別労働関係紛争のあっせんには「特定社会保険労務士」の資格を持った者を代理人として立てることができます。

特定社会保険労務士は、個別労働関係紛争の「あっせん」において、労働者側・使用者側いずれの代理人としても手続を行うことができます。これは、特定社会保険労務士に付与されている「紛争解決手続代理業務」に基づくものです。あっせん申請書や答弁書の作成・提出、労働局との連絡調整、あっせん期日への代理出席など、手続全般を代理人として行うことができます。専門家が事実関係を整理し、適切な主張を組み立てることで、双方にとって現実的な解決点を見出しやすくなるため、必要に応じて代理人を依頼することは、早期解決につながる有効な手段です。

Point3:申請書の提出で都道府県労働局長が紛争調整委員会へあっせんを委任、あっせんの開始通知がされ、参加・不参加の意思確認が行われます。

なお、参加・不参加は任意となるため、不参加の意思確認があった場合はその時点であっせんは打ち切りとなります。参加の強制力はありません。

Point4:あっせん期日の決定後、あっせんが実施されるが当事者の直接対面は原則なし。

あっせん委員があっせん申請書・答弁書に基づき、当事者双方の主張を確認、必要に応じ参考人からの事情聴取を行い、紛争当事者間の調整をします。双方が求めた場合は両者に対して、事案に応じた具体的なあっせん案の提示などを行います。なお、原則同一のあっせん日期日に紛争当事者双方が別室で待機し、あっせん委員が双方の意見調整を個別に行う形で行われ、当事者同士が直接対面することはありません。

Point5:あっせん案を双方が受託したら合意が成立、不合意の場合は打ち切りとなり、他の紛争解決機関の説明・紹介がなされます。

なお、あっせん案を受託するかどうかは、当事者の判断になり、必ずしも受け入れないといけないわけではありません。

なるほど~だいぶイメージがわいてきたな。直接対面することもなければ気軽でいいかな、また特定社会保険労務士さんに代理をお願いできるなら、少しは大変さも和らぐ気がするな。

そうね、裁判で白黒つけたい、公に示したいとかそういうはっきりした意思があるならともかく、紛争のほとんどの当事者はそのようなことは最初からは望んでいません。けんか両成敗ではないけど、お互いの非を認めつつ、信頼関係の再構築のため、話し合いで解決できる方法として第三者が入る有効な手段であると思います。その代わり強制力の面では劣っていて拒否もできますが、もしこれを避けて労働審判や民事訴訟に進んだとしても、やっぱりここで早期解決しておいたほうが良かったと後悔しないためにも知っておくことは重要ですね。

 

【参考】簡易・迅速・無料・秘密厳守の解決援助サービス 職場のトラブル解決サポートします(厚生労働省、都道府県労働局リーフレット)

その他:労働局に設置された「紛争調整委員会」以外に紛争解決をあっせんしてもらえる機関があるの?

①社労士会労働紛争解決センター

都道府県労働局に設置された紛争調整委員会以外にも、労働紛争の解決をあっせんしてもらえる機関があります。その一つが、法務大臣の認証を受けた民間型ADRである「社労士会労働紛争解決センター」 です。各都道府県の社会保険労務士会に設置されており、労働者・使用者のいずれからでも申請することができます。社会保険労務士は、労使の信頼関係を重視し、企業活動が円滑に進むよう支援する専門職であり、その使命に沿った形で、実務的かつ柔軟な紛争解決を行っています。手続の流れは、労働局の紛争調整委員会によるあっせんとほぼ同様ですが、あっせん委員は社労士が担当します。

②都道府県の労働委員会

労働組合と使用者との紛争については、都道府県の 「労働委員会」 が窓口となります。労働委員会では、集団的労使紛争を中心に扱いますが、個別労働関係紛争のあっせんを行う場合もあります。
【参考】労働委員会の手引き(香川県労働委員会)

個別労働関係紛争に限ってみると労働局の紛争調整委員会が一番相談件数が多いと思いますが、必要に応じて他の機関もあることを知っておくと良いですね。

オフィスこころの所見

今回は、今まで取り上げたことがなかった個別労働関係紛争の解決手段について、概要をまとめてみました。裁判以外にもこれだけの紛争解決手段があるとわかるだけでも心強いですよね。もちろん、日ごろからこういった紛争が起きないよう、事業主側は就業規則や労働環境を整えて、より働きやすい職場にすること、労働者側は事業活動に誠実に貢献することを通して、自己の生活を安定させたり、能力の向上を図ること、その土台があって初めて信頼関係が成り立っていることをお互い認識することも大切ですね。

そうだね、紛争が起きる前に自分としてもやるべきことをやって、信頼関係が崩れないように働いていきたいな。事業主にもどんどん意見がいえる職場だったら、自主的に解決が図られることも多そうだね。

労働者から何か指摘された場合、事業主さんも不安になることが多いだろうから、法的にどうなのか、どうやっていくのがよいかなどアドバイスを聞けたら安心材料にもなるから、紛争が起きる前にも相談していいんですってことを伝えたいと思います!

そうね、それはぜひアドバイスしてほしいわ。もちろん専門家である社会保険労務士も紛争が起こらないよう労働環境を未然に整える役割を果たすことになりますが、実際の個別労働関係紛争の場で代理人となれるのは、弁護士以外には「特定社会保険労務士」のみになります。特定社会保険労務士は、社会保険労務士登録を受けている者が 厚生労働大臣が定める特別研修を修了した上で紛争解決手続代理業務試験に合格してそれを付記申請した者に限られ、労働関係法の法的根拠や判例、実務についてもより専門性があると言えます。万一何か起こったときは、頼れる専門家になると思いますので、まさかの時のために覚えておいてくださいね。オフィスこころも今年度から特定社会保険労務士として活動できることになりましたので、求めに応じて貢献できれば幸いです!

 

🌷Pickup【お役立ちミニ講座】