【お役立ちミニ講座vol.33】中小企業の退職金制度、どれを選ぶ?〜中退共・iDeCo+・企業型DC・DB・自社積立をやさしくざっくり比較〜

皆さん、こんにちは。ぎらぎらな夏もピークを過ぎたのかなと思わせる気候ですが、今年の夏は冷やしおでんとフレッシュオリーブオイル+塩をかけていただく絹ごしゴマ豆腐にはまりました💦暑い夏でも涼しくて食欲がわくレシピがあったら教えてください🍅
 さて今日は、これまで取り上げてこなかった「退職金制度」についてお話ししたいと思います。 給与は気にしていても、退職金については意外と知られていないことが多く、制度によって将来の受取額が大きく変わります。そこで今回は、 中小企業が選べる主な5つの退職金制度を、全体像からやさしく整理していきたいと思います📒

退職金か~うちはあるっていうのは知っているんだけど、いくら掛けてもらっているのか、どれくらいでるのか正直きいたことないなあ。たくさんもらえるなら嬉しいけどどうだろう。少なかったら悲しいから聞かないほうがいいかな、、

大企業だったら、一千万単位くらいで出るって聞いてるけど、中小だったらそんな望めないのが現実だよねって思ってしまいます。ただ、うちの社長も求人のために最近新しい退職金制度を探し始めているみたいなんで、こんな違いがあるみたいですよって提案できるようにしたいです!

それは、ちょうど良かった。退職金制度はひとつの制度を細かくみていくより、まず全体の森をみてから細部をみて、目的によって比較選択していくことが重要だと思うので、今日は社労士兼「高度年金・将来設計コンサルタント」のオフィスこころがそこを目指して解説頑張ります!

🌼 まず前提として退職金は必須なのでしょうか?→義務ではないけど、規程等で定めたら支払い義務発生が原則

 退職金は法律上、必ず支給しなければならないものではありません。会社が退職金制度を設けるかどうかは原則として会社の判断に委ねられています。ただし、就業規則や退職金規程、労働契約などで「一定の要件を満たした従業員には退職金を支給する」と定めた場合には、その規定に基づいて退職金を支払う義務が生じます。「退職金そのものは法律上の義務ではないが、会社が退職金制度を設け、その内容を規程等で定めた場合には、その規程に従った支給義務が生じる」というのが基本的な考え方です。

退職金制度を一度導入するって決めたら、金額の他、その制度が安全なものなのか、長期的に見て大丈夫なのか、そういう目線でもみないといけないってことですね。色んなリスクも考えて導入を決断する事業主さんを支えたいです!

🌼 比較する主な5つの退職金制度

  1. 中小企業退職金共済(中退共)
  2. iDeCo+(イデコプラス/中小事業主掛金納付制度)
  3. 企業型確定拠出年金(企業型DC)
  4. 確定給付企業年金(DB)
  5. 自社積立(社内引当)

①中小企業退職金共済(中退共)― 国が後押しする中小企業の王道の退職金積立制度

 独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、いわゆる「中退共」と呼ばれている退職金制度です。中小企業者の相互共済と国の援助によって退職金制度を確立し、中小企業の従業員の福祉の増進や中小企業の振興に寄与することを目的としています。
 掛金は月額5,000円~30,000円から選択でき、短時間労働者については2,000円~4,000円の特例掛金も選択できます。新しく中退共に加入する事業主には、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員1人あたり上限5,000円)を国が助成してくれます。その他、掛金増額時の助成もあります。
掛金は全額事業主負担で、税法上の特典もあり、事務負担が比較的小さいこともメリットです。また、従業員が退職した場合には、中退共から退職者本人に直接退職金が支払われ手続きも簡易になっています。なお、業種によっては、建設業従事者を対象とする「建退共」、林業従事者を対象とする「林退共」といった同様の退職金共済制度もあります。

【その他着眼ポイント】
週所定30時間以上の従業員全員加入が原則 短時間労働者も加入可能
加入対象者は原則として週所定30時間以上で働く従業員全員加入が基本です。 パート等の短時間労働者を含めることもできますが、対象者を決めた場合には、その範囲内で個別に加入・非加入を選択することは原則できません。
掛金は全額損金算入(事業主負担)
中退共の掛金は 全額を必要経費(損金)として計上できる ため、企業にとって税務上のメリットがあります。また、退職金は中退共から従業員へ直接支給され、企業側で課税関係は発生しません。
短期間退職時の掛金割れ
加入後の短期間で退職した場合には、加入1年未満は退職金が支給されない、加入2年未満は掛金納付額を下回る場合がありますが、事業主への返還はありません。
懲戒解雇時の減額制度
退職理由によって中退共から支給される退職金額が変わることは、原則としてありませんが、懲戒解雇等の場合は、厚生労働大臣の認定を受けたうえで、退職金を減額することができます。

💡おすすめ企業像:
・初めて退職金制度を導入し事務負担をできるだけ軽くしたい企業
・従業員数が少なく、制度を簡潔に運用したい企業
・退職金の支給事務を会社で抱えたくない企業
・国の助成を活用して制度導入したい企業
・退職理由に左右されない、シンプルで公平な退職金制度を整えたい企業
・企業型DCやDBほどの制度設計は難しいが、最低限の退職金制度は整えたい企業

令和7年度時点で全国で37万余りの事業所が利用しているようで、中小企業の退職金制度といえばまずこちらを取り入れている企業が多いように思います。国の助成の他、各自治体によっては補助制度もあるようなので、まずは比較的小さな掛金から退職金制度を導入したい事業所には最適かもしれませんね。中退共のHPにも掛金と退職金のシミュレーションもできますので気になる方は確認してみてください。

 

なお、今回は詳しく取り上げませんが、福祉施設などにお勤めの方には「福祉医療機構(WAM)の退職手当共済制度」もあります。中退共とは少し仕組みが異なりますが、福祉・介護分野ではおなじみの退職金制度です。業種ごとの退職金制度があるところはまずそれを第一候補として検討していくのもよいですね。

【参考】中小企業退職金共済制度ホームページ
独立行政法人福祉医療機構退職手当共済事業ホームページ

② iDeCo+(イデコプラス) ―会社が掛金を上乗せして、従業員のiDeCoで老後の資産形成を応援する福利厚生制度

 iDeCo+(イデコプラス)は、従業員300人以下の中小企業(かつ企業年金を実施していない企業)が従業員自身のiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金に上乗せして掛金を拠出する制度です。会社が従業員の老後の資産形成を支援できる制度で、特に退職金制度をこれから整備したい中小企業にとって、比較的導入しやすい選択肢の一つです。会社が拠出した掛金は従業員のiDeCoの口座に入り、運用商品は従業員自身が選択して運用します。会社が退職時にまとまった退職金を支給する制度とは異なり、「会社が老後資産形成を支援する制度」という性格が強いのが特徴です。なお、iDeCo+を導入するには、労使協議による独自の手続きが必要になり、一定の職種や勤続期間により加入資格を定めることができます。

【その他着眼ポイント】
✅厚生年金の被保険者である従業員のiDeCo加入が前提 本人も掛金拠出が必要
iDeCo+は、厚生年金被保険者のうち、原則として従業員自身がiDeCoに加入していることが前提となり、従業員も最低1,000円以上の掛金拠出が必要になります。なお、加入者掛金は給与より天引きし事業主があわせて払い込みを行います。
会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用
運用結果によって将来受け取る年金資産の額が変わります。 元本割れの可能性もありますが、運用が順調であれば掛金累計額を上回る資産形成が可能です。
税制メリットが大きい
事業主掛金:全額損金算入、加入者掛金:全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となり双方に税額控除のメリットがあります。
掛金上限が2026年12月に大幅引き上げ予定
現在掛金の上限額は事業主拠出加入者拠出あわせて23,000円までですが、2026年12月に上限額が62,000円に変更される予定です。
iDeCoへの加入は強制ではない
 iDeCoに加入したくない従業員は加入する必要がなく、その場合、会社もiDeCo+の掛金を拠出しません。iDeCoに加入している従業員についても、会社が掛金を拠出するためには本人の同意が必要です。

💡おすすめ企業像:
・従業員300人以下の中小企業で、退職金制度をこれから整備したい企業
・従業員の老後資産形成を会社として応援したい企業
・導入コストを抑えながら福利厚生を充実させたい企業
・従業員の金融リテラシー向上を後押ししたい企業
・退職金制度をいきなり大きく整備するのは難しいが、何かしら支援を始めたい企業

今、自分は小額だけどiDeCoで毎月積み立てしているんだけど、それに会社が上乗せしてくれるイメージ?だとしたら、それやってもらいたいなあ。

そうね、まさしくそんな感じよ。iDeCoを既にやっている従業員にとっては、今の自分の口座でそのまま運用できるっていうのは恩恵が多そうね。ただ、iDeCoをやっていない従業員も加入する場合は口座を新しく開設してもらわないといけなかったりするので、非加入従業員が多いと導入時の説明や手続きが結構大変だったりしそうですね。それに加入して同意すれば掛金拠出の対象になるけど、それも面倒なのでやりたくないっていう従業員がいたりする可能性もありますよね。まずは制度導入に向けた詳しい導入ガイドがありますので、詳細はそちらをご確認の上、従業員への説明が重要になってきます!

【参考】iDeCo+(イデコプラス)導入ガイド(国民年金基金連合会・厚生労働省作成)

③企業型DC ― 会社が拠出、運用は従業員。役員の資産形成にも活用でき、採用・定着にもつながる「運用型」退職金制度

企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が従業員のために掛金を拠出し、その掛金を従業員自身が運用する制度です。会社が毎月一定額を拠出し、従業員は用意された運用商品の中から自分で商品を選択して運用します。将来受け取る金額は、会社が拠出した掛金と運用成果によって決まります。企業型DCでは、従業員が個人で加入しているiDeCoの口座とは別に、企業型DC専用の口座(個人別管理資産)が設けられます。会社から拠出された掛金はこの口座に積み立てられ、従業員自身が用意された運用商品の中から商品を選択して運用します。
【その他着眼ポイント】
✅加入対象は厚生年金被保険者
企業型DCは、会社が企業型年金規約を定め、規約で定めた加入対象者が加入する制度です。原則として厚生年金の被保険者が対象となります。制度上は70歳まで加入可能ですが、加入上限は規約で定められます。
会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用
iDeCo+と同じく、運用結果によって将来受け取る年金資産の額が変わります。 元本割れの可能性もありますが、運用が順調であれば掛金累計額を上回る資産形成が可能です。会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用します。
税制メリットが大きい
事業主掛金は 全額損金算入。 また、選択制企業型DCでは、給与の一部を受け取る代わりに企業型DCへ拠出する仕組みもあり、その場合は 所得税・住民税・社会保険料の負担が軽くなる可能性 があります。(ただし、将来の年金額や社会保険給付に影響するため、メリット・デメリットの理解が必要)

✅税額を抑えながら役員の資産形成にも活用可能
企業型DCは、一定の要件を満たせば役員も加入対象にできるため、従業員の福利厚生だけでなく、経営者・役員の老後の資産形成を会社として支援する制度としても活用できます。
従業員自身が掛金上乗せ可能(マッチング拠出)
企業型年金規約に定めれば、従業員が自分で掛金を上乗せする「マッチング拠出」が可能。 2026年12月からは、従業員掛金が 事業主掛金を超えられない制限が撤廃 される予定で、制度がより使いやすくなります。
企業側のある程度の導入・運用コストは想定内にしておく必要
企業型DCは、制度導入時に規約整備・加入手続きなどの初期費用がかかります。導入後も、運営管理機関・資産管理機関への手数料、投資教育など 継続的なコスト が発生します。

💡おすすめ企業像:
・従業員の老後資産形成を会社として積極的に支援したい企業
・投資教育を含めて、従業員の金融リテラシー向上にも取り組みたい企業
・役員の老後資産形成も会社として支援したい企業
・退職金制度を整備したいが、DBほどの運用リスクは負いたくない企業
・従業員規模を問わず導入しやすい制度を求める企業
・選択制DCで社会保険料・税負担の最適化を図りたい企業
・従業員の定着や採用力を高めたい企業

iDeCo+と何か似ている気がするのですが、やはり少し違いますよね。企業型DCは専用口座で管理していく感じなんですね。

「会社が従業員の老後の資産形成を支援し、掛金を積み立てて運用する」点では同じなんだけど、掛金は企業型DCの個人別管理資産として管理され、「会社の退職・資産形成制度」として一段しっかりした仕組みという違いがあります。iDeCo+は中小企業の従業員向けの制度ですが、企業型DCは企業規模を問わず導入でき、一定の要件を満たす役員も加入対象にすることができます。企業型DCは転職時に一定の要件のもとで年金資産を転職先の企業型DC等へ持ち運ぶことができます。そのため、企業型DCを福利厚生として整備することは、従業員の長期的な資産形成を支援するだけでなく、「退職金・資産形成制度が整った会社」として人材採用や定着の面でもアピールできる可能性があります。

なるほど~やっぱり細かくみていくと大きな違いがありそうですね。運用には興味があるけど、まだやったことないので、会社が主導でやってくれるなら任せてもいいかなあ。社長に提案してみたいです!

深堀すればまだまだあるんだけど、企業型DCについては、注目されていることもあり、また機会があれば単独記事で詳しく紹介していきますね!

④確定給付企業年金(DB)― 給付額をあらかじめ定め、安定した退職金制度を導入したい企業向け

確定給付企業年金(DB)は、会社が掛金を拠出して年金資産を運用し、将来、従業員が受け取る給付額の算定方法をあらかじめ定めておく制度です。企業型DCでは、会社が掛金を拠出した後の運用を従業員自身が行い、運用結果によって将来の受取額が変わります。これに対してDBでは、会社側が運用を行い、あらかじめ定められたルールに基づいて給付を行うため、運用結果によるリスクを基本的に会社側が負います。「退職金制度をしっかり整備したい」「将来の退職給付について一定のルールを設け、従業員の安心感につなげたい」という企業にとって、選択肢となる制度です。会社が単独で実施する規約型と企業年金基金を設立して実施する基金型があり、企業規模や制度設計に応じて適した方式を選ぶ必要があります。

【その他着眼ポイント】
運用実績が予定を下回った場合に追加負担あり
将来の給付額やその算定方法があらかじめ定められているため、従業員にとっては
将来受け取れる退職給付をイメージしやすいというメリットがありますが、一方、運用実績が予定を下回った場合などには、会社側に追加の負担が生じる可能性があります。
掛金水準を柔軟に設計でき、枠も大きい(企業の裁量が広い)
DBは、企業型DCのように法令で掛金上限が細かく決まっている制度とは異なり、企業が規約で掛金水準や給付額の算定方法を柔軟に設計できるという特徴があります。そのため、企業規模や財務状況、従業員構成に合わせて、 比較的高い水準の退職給付を設計することも可能です。
事業主掛金は一定の要件のもとで全額損金算入
企業型DCと同様、事業主が拠出する掛金は税務上の優遇があります。
従業員は運用不要(投資知識がなくても安心)
DBは、企業型DCのように従業員自身が運用商品を選択する必要がないため、投資や運用についての知識がない従業員にとっても利用しやすい制度です。
一定の要件を満たせば役員も加入可能
DBは、従業員だけでなく 一定の要件を満たす役員も加入対象 とすることができます。 そのため、従業員の退職給付制度としてだけでなく、経営層の老後資産形成を会社として支援する制度としても活用できます。
60歳前の退職でも給付可能(制度設計による)
iDeCo+や企業型DCは原則60歳まで受け取れませんが、 DBは規約で定めれば 60歳前の退職でも退職一時金として給付可能 です。
選択制DBも可能(給与の一部を退職給付に振り替え)
給与の一部を将来の退職給付に振り替える「選択制」を取り入れることもできます。ただし、給与額が変わるため、税金・社会保険料・将来の給付への影響を丁寧に説明することが重要です。
✅中小企業でも導入できる簡易型DBがある
一般的にDBは大企業向けの制度というイメージがありますが、実際には中小企業でも導入できる簡易型のDB制度が存在します。企業型DCほど運用を従業員に任せたくない企業や、安定した給付設計を求める中小企業にとって選択肢となり得ます。

💡おすすめ企業像:
・長期的な人材戦略を描きたい企業
・従業員に安定した退職給付を提供したい企業
・企業型DCのように従業員に運用を任せるのではなく、会社側で運用・管理したい企業
・役員を含めた長期的な退職給付制度を整えたい企業
・退職時の柔軟な給付設計(60歳前の退職一時金など)を行いたい企業

DBで確定した未来の安心をとりたいか、iDeCoやDCで運用による資産形成を狙うか、これは迷いどころだな。早期退職したときに60歳より前に受け取れるのはありがたいなあ。

そうよね、中退共以外で経費化できる退職金制度を探す場合は、iDeCo+、企業型DC、DBそれぞれの特性を踏まえて、従業員の要望も聞きながら選択していくのがベストですね。

 

⑤ 自社積立(社内引当)― 自由度は高いが税メリットは薄い。生命保険などを活用する方法も

 自社積立(社内引当)は、会社が退職金の支給に備えて 自社の資金として内部に積み立てておく方法 です。 中退共や企業年金のように外部制度に加入するのではなく、会社が自社で資金を準備し、退職時に就業規則や退職金規程に基づいて従業員へ退職金を支給します。会社自身で資金を管理するため、積立額や制度設計の自由度が高いことが特徴です。 一方で、会社の資金繰りや経営状況によっては、将来の退職金支給に影響する可能性があります。税務上は、単に「退職金のために社内にお金を残しておく」だけでは損金算入できず、実際に退職金を支給した時点で損金算入されます。 そのため、iDeCo+・企業型DC・DBのように 掛金拠出段階で税メリットがある制度と比べると、積立段階での税メリットは薄い といえます。ただし、生命保険を活用して退職金原資を準備する方法もあり、契約内容によっては保険料の一部を損金算入できる場合があります。 生命保険の場合は、退職金準備に加えて 役員・従業員の死亡など万一の保障を確保できる というメリットもあります。

【その他着眼ポイント】
自由度が高い(外部制度に縛られない)
会社が自社で資金を管理するため、自由度が高いのが大きなメリットです。外部の制度に加入する必要がないため、会社の考え方に合わせて退職金制度を設計することができます。
✅ 業績に応じた機動的な積立が可能(ただし資金繰りリスクあり)
資金繰りに余裕がある時期に積み立てておき、将来の退職金支給に備えることができます。ただし、会社の資金と退職金原資が同じ財布にあるため、資金繰りが悪化すると実際の支給が難しくなる可能性があります。

退職給付債務の計上が必要になる場合あり
 自社積立は、将来の退職金支給義務を会社が直接負うため、会計上、退職給付引当金(退職給付債務)として貸借対照表に計上が必要になる場合があります。中小企業では簡便法での計上が認められていますが、顧問税理士と相談のうえ処理方法を確認しておきましょう。
生命保険を活用した退職金準備も可能 短期離職が多い場合は慎重に
法人契約で生命保険に加入し、保険料の支払いによって解約返戻金が会社の資産として積み上がり、退職時にその返戻金を原資として活用する方法があります。ただし、保険料の税務取扱いは契約内容によって異なり、必ずしも全額が損金になるわけではありません。また、短期離職が多い企業では、加入初期は解約返戻金がほとんど増えないため、退職金原資としては不利になる点に注意が必要です。
保障と退職金準備を同時に確保できる
生命保険を使う場合、退職金準備だけでなく、死亡保障も確保できます。目的に応じて適した保険商品を選ぶ必要があります。

退職金規程の整備が必須
自社積立は「会社にお金を貯めておけばよい」という制度ではなく、将来の退職金支給について従業員との間で権利義務が発生します。そのため、退職金規程で支給条件・計算方法を明確に定めておくことが重要です。

💡おすすめ企業像:
・外部制度に縛られず、会社の考え方に合わせて退職金制度を柔軟に設計したい企業
・従業員や離職者も少なく、シンプルな退職金制度を運用したい企業
・「退職金の準備」と「万一の保障」を同時に確保したい企業(生命保険活用)
・資金繰りに余裕があり、内部留保で退職金を準備したい企業

ふむふむ、自由度は高いけどこれを活用しようとするとかなり戦略的に考えていかないといけないですね。

会社の価値観・財務状況・人材の定着状況を踏まえて設計することで、自社積立はメリットを発揮しますが、これらを踏まえずに運用すると負担が偏ったり、支給が不安定になる可能性がありますね。

🌼 一覧表でざっくり比べてみましょう

■ 基本比較(運用リスク・損金算入・助成・事務負担・資産保全・対象・役員加入・利率の考え方)

項目 ①中退共 ②iDeCo+ ③企業型DC ④DB ⑤自社積立
一言で言うなら? 国のシンプル退職金 会社がiDeCoに上乗せ 会社が積み立て、従業員が運用 会社が運用して将来の給付を約束 会社が自分で貯める
運用リスク 従業員なし 従業員 従業員 会社 会社
掛金の損金算入 ○(従業員掛金は所得控除) ×〜△(支給時のみ)
国の助成 あり なし なし なし なし
事務負担・費用負担
資産保全の仕組み ×
対象 中小企業 厚生年金適用事業所・従業員300人以下等 厚生年金適用事業所 厚生年金適用事業所 制限なし
役員加入 ×(不可 △(原則対象外 ○(要件あり) ○(要件あり) ○(会社の裁量
利率の考え方 予定利回り+付加退職金 運用成果次第 運用成果次第 予定利率(会社が補填) 規程で定めた金額

※「利率の考え方」は制度の性質を大まかに整理したものです。具体的な利率水準は制度改正・運用状況によって変動しますので、詳細は各制度の公式資料をご確認ください。

税メリット比較(拠出・運用・受取)

制度 拠出時の税メリット 運用時の税メリット 受取時の税メリット
① 中退共 会社掛金は 全額損金算入 共済内の運用益は 非課税 退職所得控除+1/2課税(一時金)
② iDeCo+ 従業員掛金は 全額所得控除/会社拠出は給与課税なし 運用益は 非課税 退職所得控除+1/2課税(一時金)/公的年金等控除(年金)
③ 企業型DC 会社拠出は給与課税なし/マッチング拠出は 全額所得控除 運用益は 非課税 退職所得控除+1/2課税(一時金)/公的年金等控除(年金)
④ DB 会社負担分は 損金算入 運用益は 非課税 退職所得控除+1/2課税(一時金)/公的年金等控除(年金)
⑤ 自社積立 原則 損金算入不可(退職金支給時に損金) 運用益は課税対象 退職所得控除+1/2課税(一時金)

※本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいています。各制度の対象・加入要件・掛金・費用・税務上の取扱い等は、企業規模や制度設計、契約内容によって異なります。また、税制や助成金制度は改正されることがありますので、導入検討時は各制度の最新要件を必ずご確認ください。

🌼 『どれが一番良いか』ではなく、制度は『組み合わせ』が正解のことも

退職金制度は、必ずしも一つの制度だけで完結させる必要はありません。例えば、

  • 中退共(または業種別退職金制度)+企業型DC
  • iDeCo++自社積立
  • 企業型DC+DB
  • 企業型DC+自社積立(生命保険)

など、会社の規模や資金力、従業員の年齢構成、採用・定着への考え方などに応じて、複数の制度を組み合わせる方法もあります。今中退共を導入している会社がさらに+αを考える場合に「最低限の退職金は中退共で確保し、さらに会社として資産形成を支援するために企業型DCを導入する」という選択もできますよね。大切なのは、「どの制度が一番良いか」ではなく、会社がどの程度の負担をできるのか、従業員にどのような退職後の資産形成を提供したいのかを整理したうえで、自社に合った制度を選ぶことです。

🌼 退職金導入時に活用できる助成金ってありますか?

退職金制度の新規導入にあたっては、助成金を活用できる場合がありますので2026年度時点の情報で紹介します。

キャリアアップ助成金 賞与・退職金制度導入コース
有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合、中小企業に40万円、大企業に30万円の助成額となっています。賞与制度と退職金制度を同時に導入した場合は加算措置があります。
ただし、こちらのコースは有期雇用や短時間労働者といった非正規雇用労働者のキャリアアップを図る助成金ですので、退職金制度を導入しただけでは対象になりません。社内の有期雇用労働者等全員(雇用保険被保険者)を加入対象とし、退職金の場合は 1名につき月3,000円以上を6か月以上積立するなどの要件を満たす必要があります。
【注】助成金は年度ごとに要件・金額が変わるため、実際の申請前には必ず厚生労働省の最新パンフレット等でご確認の上、助成金センターに確認してください。

直接的な助成ではないですが、キャリアアップ助成金の正社員化コースの正社員の定義として、昇給があることは大前提として、その他「賞与または退職金制度がある」ことが条件になっていますので、賞与がない事業所も退職金制度を導入すれば正社員の定義を満たすことになりますね。なお、この退職金制度には「iDeCo+」は含まれませんのでご注意くださいね。

🌼 オフィスこころの所見

めまいがするほどの情報量だったけど、何となく制度の違いの全体像が見えてきました!まずは事業主さんへのヒアリングが重要ですね。

世の中にはこんなにたくさん退職金制度があるんだってよくわかったよ。無頓着だったことが恥ずかしいけど、明日自分の会社の退職金制度がどうなっているのか確認してみるよ。

そうね、色々突き詰めて考えると複雑で分からなくなってくるけど、一度導入するとなかなか変えられないと思うので、まずはリスクの少ないところから始めてみるのもよいかもしれませんね。また、今は同一労働・同一賃金の観点から、退職金についても目的に応じた非正規労働者への待遇改善が求められる時代です。 長く働いてくれている短時間労働者にも一定の退職金制度があることは、モチベーションにもつながります。

退職金制度は、会社から従業員へのメッセージです。 「長く働いてくれてありがとう」をどんな形で伝えたいか、その思いを制度に込めてください。 そして、どうせ導入するなら、今いる従業員の声もしっかり聞いてくださいね。今、退職金制度がない会社は、求人票に「退職金制度あり」と記載できるよう、まずは小額からでも取り組んでみることをおすすめします。 

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